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日熊行燈

枕元にカステラを置いて寝ています

Revisited

旅をしました。5年間。

街を巡り、人を見ました。

すれ違うだけで、その街の印象も随分と理解できるものだと思います。

北極圏近くの街に行きました。トロムソ。

遠い霞のような街でした。静かで薄い。

トロムソは大学街で、真夏で6度という寒く鋭い空気の中、手を繋いで歩く人のつながりと、家でパーティーをする音が街に漏れていました。

澄んだ海が街を包んでいました。街のほとりに幾何的な教会が立っていました。海に臨んで。

 

バンコクに行きました。

私はスクンビットという、街の中心駅から少し歩いたところに宿を取っていました。

駅の近くには夜遊び区域があり、駅の周辺にも立ちんぼをふと見かけました。

活気につられて少し道を流してみると、白人のおじさんが嬉しそうに店の女性と口を合わせていました。「人が生きている」と思いました。

こういう街は好きです。ダメな男しかいないから(もっとも普段立派な男でも、ダメな男になりに来ているのでしょうが)。自分が赦されているような気がします。

 

メキシコ中部の街々に訪ねました。

どこに行っても革命記念碑がありました。全て敗けた革命です。

イースターでした。骸骨の人形が昼夜を問わず街を練り歩いていました。

ああ、ここの人たちは負を笑い飛ばしている。

死や敗北を、どんなマイナスとも思わず、そこにあるものとして尊敬している。

 

私はホテルのドア前で煙草を吸っていました。

二人の肌黒い、身なりの貧しい少年が訪ねてきました。

「煙草を一本ずつ欲しい」と。

 

子供にあげるのもどうだろう。拒否すると。一人の少年は去り、もう一人は残りました。

彼は「じゃあこれに火を付けてくれ」と汚れた吸い殻を取って言いました。

私は火を付け、煙草を二本あげました。

私は今でも、そしておそらくずっと、彼のことを考えています。