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日熊行燈

枕元にカステラを置いて寝ています

大昔に書いた文章

その街は人行きが消えかかる夜にあった。白い大きな蛾が街灯の光る路道を飛び、死んだ蝉が叶うことのなかったものの零れ落ちる路端に閉じ込められていた。
夏の夜だった。
男と女、手をつないで寄り添った二人がその街を歩いていた。
彼らは孤独だった。なぜなら、彼らが孤独でない世界のことを私はわからないからだ。
そして孤独である以上のことを記されなかった彼らは、別の世界に記された人間の描写を、美しいけれど、生涯行くことのない遠い土地のように眺めていたのだ。
しかし彼らにその何がわかるのだろうか、彼らは孤独であること以外を許されていないのに。追憶や郷愁をする対象など何もなかったのだと、魂を賭けるべきものなど何もなかったのだということを、暗い夜にいる彼らを縁どる街の灯のようにぼんやりと感じながら。